咲き遅れ [創作]

校庭の隅に、忘れられたように一本のソメイヨシノ。

ひっそりと満開を迎えたその花を一人で見るのが僕は好きだ。

けれど今日は先客がいた。

真新しい制服に身を包んで、一目で新入生とわかる女子生徒。

僕の足音に気付いて、その子は振り向いた。

「どうしたの?迷っちゃった?」

微笑みかけると、新入生は首を横に振る。

「この桜、自分に似てるなぁって思って。」

僕が首を少し傾げると、新入生は戸惑ったような様子をみせながら話してくれた。

「校門の桜、ほとんど葉桜ですよね。でもここはこんなに花が残ってるでしょう。」

「この桜は、校舎の影になって日当たりが悪いから、遅れて咲くんだ。」

「可哀相ですよね。ひっそり咲いて、目立たないまま散って…」

新入生は少し寂しそうに微笑みながら、桜の幹を撫でた。

「そうかな?」

えっ?っという顔をして、新入生は顔を上げた。

「よく見て。ひっそりとなんて咲いてないよ。誰かに見てもらえるとかそんなこと思いもしないで、この桜は精一杯咲いてるよ。他の桜と同じようにね。だからこそキミや僕のように、惹かれて足を運んで愛でる人もいるんだよ。」

僕は手を伸ばし、花をそっと撫でる。

「そうですよね…。精一杯咲いてるから、私だってこの桜に気付いたんですよね。」

新入生が桜を見上げると、花の合間から青い空がまぶしく覗く。

「可哀相じゃないよね、この桜?」

僕が微笑みかけると、新入生は初々しい笑顔で「はい!」と答えた。


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sumi

いつもご来店いただきありがとうございます(^v^)
すてきなお話でした。
桜の季節が待ち遠しいですね♪
by sumi (2011-02-05 16:40) 

藤並 海

>sumiさん
ありがとうございます(^^
お褒め頂いて光栄です♪
by 藤並 海 (2011-02-05 18:56) 

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