七夕過ぎて [創作]


「そう言えば、七夕だったな」

夜勤明けで家に戻ろうと駅前の商店街を歩いている僕の目に笹飾りを片付けている人の姿が目に入った。

僕が子供の頃には、近くの小川に笹飾りを流しに行ったっけ。

最近は不法投棄になるとかで、焼却処分されているっていうし、味気ない世の中になったな。

軽トラックに次々と積まれる笹飾りの一つに目が留まる。

黄色の短冊に黒のマジックで大きく『世界征服』。

いたな~クラスに一人はこういうことを書くヤツ。

落ち着きがなくっていつも先生に叱られていた坊主頭の顔がふと浮かぶ。

そういや、この前SNSでこういう内容を子供が学校の笹飾りに描いたら、親子で学校に呼び出されて書き直しをさせられたって見かけたな。

子どもの大きな夢を笑って受け止められる大人が少なくなったんだろうか。

あの『世界征服』って願い事を書いた坊主頭の彼は、今頃どうしているだろう。

意外と同級生のなかで一番大物になってたりするんだよな。

僕はなんて書いたっけ?

『算数のテストで100点が取れますように』だったかな・・・。

目先の事しか考えてなかったと苦笑いしながら、ふと立ち止まった。

今もそうじゃないか?

とにかく定職に就かなきゃと好きでもない仕事して、先の展望なんてなにもない。

僕は本当は何をしたかったんだろう。何をして生きていきたいんだろう。

七夕は過ぎちゃったけど、たまには目先の事じゃなくてずっと先を見据えてみようか。

サワサワと笹の葉がこすれる音を立てながら軽トラックが僕を追い抜いていった。

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